
連載:リーパーすみこ先生先生に聞く、アメリカの教育事情
GIGAスクール構想のもとでの小学校の英語教育の在り方

- リーパーすみこ先生プロフィール
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アイオワ州立大学大学院ジャーナリズム学部修士課程卒業。アルバカーキー市の公立小学校で図書館司書として20年勤務。現在も、読み聞かせ活動を行なっている。
著書:『ライブランアン奮闘記』(径書房)『えほんで楽しむ英語の世界』(一声社)、『アメリカの小学校ではこうやって英語を教えている』『アメリカの小学校では絵本で英語を教えている』(径書房)『アメリカの小学校に学ぶ英語の書き方』(コスモピア)『アメリカの幼稚園ではこうやって英語を教えている』(径書房)『年齢なんて単なる数字よ』(amazonペーパーバック)。
文部科学省が進めているGIGAスクール構想について
GIGAスクール構想について、教育の現場ではどのような状況なのでしょうか。
GIGAスクール構想の発表当初は、2023年度までに現場の学校へ一人1台の端末を普及させるとしていたのですが、昨年の社会情勢(COVID-19の流行と緊急事態宣言による自宅待機)の影響によって、オンライン授業が必要に迫られる状態となりました。そのため、全国の小中学校のICT環境の整備を2020年度中(2021年3月)に完了させる計画へと前倒しされ、各地でICT環境の整備が進んでいます。
ただ、現場ではICTの活用に関して問題は山積みです。児童一人に1台の端末の納品は進んでおり、近いうちに完了されると思いますが、学校内のインフラ整備、例えば、LANなどのネットワーク環境や、ネットワークのセキュリティの担保、管理の問題等、環境整備が追い付いていないようです。また、教員側のICT研修も間に合っていないところがあると言われています。
文科省では、様々な策定が進んでおり、教員側のICT研修の拡充はもちろんのこと、小学校での教科担任制への移行も検討され始めています。(※取材当時は検討中でしたが、2021年1月26日、22年度をめどに小学校高学年は教科担任制を本格導入すると中教審が発表。)これにより、これまでのように担任の先生がほとんどすべての科目を教えるのではなく、専門性の高い科目については専門の先生が指導を行うようになっていきます。これは、教える内容が高度化してくると必然的な流れになるかと思いますが、賛否両論あるところでしょう。
やはり昨年の情勢の影響は大きいのですね。ICT活用することでの利点や残る課題などお聞かせいただけますでしょうか。
現場では、ロイロノートや、グーグルクラスルーム、Zoomといった、オンライン授業をサポートするICTツールが少し前から普及し始めています。しかし、長年、手書き方式での出欠記録や授業の進捗記録を残す方法に慣れていらっしゃる先生方が、最近の技術革新の産物であるそれらICTツールの使い方に慣れるまで時間がかかったり、オンライン授業などで、授業の進め方に違いが生じてしまったりする可能性があります。オンライン授業に奮闘されている先生方に対して、学校内のインフラ整備とともに、教員側のICT研修の充実も、早急に必要だと思います。

先日、現場で教える先生方からICTを活用してみた様子などお話を聞く機会がありました。教員の心配をよそに、子どもたちはICTに馴染むのが早く、どんどん新しい授業のやり方に適応して使いこなしていくので、教員側がICTの使い方に慣れていなくても授業を進められることがわかってきたそうです。
私立の小学校などで、先んじてICTの活用をされている事例も複数あります。メールやTV会議システムなどを利用して海外の学校と交流している例(参考:jEARN https://jearn.jp/)などを見ると、ICTの活用に教員側が時間を追うごとに習熟していくことで、新しい教育の場や方法が広がっていくのでは、と期待も感じています。
また、校内でのICTのインフラ環境が整えば、先生方の作業の効率化が進むと思います。例えば校務事務のオンライン・クラウド化されることで、授業の進捗や児童にかかる情報の処理が速くなると思いますし、また、多くのデータが活用できることでの教材準備の時間短縮であったり、学習ドリルのAI化によって児童の学習進捗を自動計測、個別対応の準備が早くできたり、といったことを想像しております。私自身が実際に、大学で教える中でもそういったことを実感しています。煩雑な校務が効率化され、より迅速な情報交換が可能になることで、児童生徒の状況を把握し、よりきめ細かく対応できるようになるのではないでしょうか。
GIGAスクール構想のもとICT環境整備が進むにつれて、病気等での長期欠席や不登校の児童・生徒のためのオンライン授業、といったことも増えていくだろうと思います。
新たに教員となられる方々へのアドバイス、エールの言葉などいただけますでしょうか?
小学校の先生方は、すぐれた教師力をお持ちの方が多いです。ですから、先輩の先生方から謙虚に色々なことを学び、「外国語」という新しい教科については、特別視せず他教科と同じように柔軟に挑戦して、子どもたちとともに「学びの楽しさ・喜び」を実感できるような授業を展開していっていただければ、と思います。
また大きな(英語)教育の転換期において、小~大学までの長期的な視点で、小学校の段階で身につけてほしい力を子どもたちにつけてもらえたら、と思います。
言葉の持つ力や言葉を通して得られる人とのつながりや新しい世界を、子どもたちと一緒に感じていただきたいです。