
連載:リーパーすみこ先生先生に聞く、アメリカの教育事情
英語に大切なのは母音ではなく子音

- リーパーすみこ先生プロフィール
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アイオワ州立大学大学院ジャーナリズム学部修士課程卒業。アルバカーキー市の公立小学校で図書館司書として20年勤務。現在も、読み聞かせ活動を行なっている。
著書:『ライブラリアン奮闘記』(径書房)、『えほんで楽しむ英語の世界』(一声社)『アメリカの小学校ではこうやって英語を教えている』『アメリカの小学校では絵本で英語を教えている』(径書房)『アメリカの小学校に学ぶ英語の書き方』(コスモピア)『アメリカの幼稚園ではこうやって英語を教えている』(径書房)『年齢なんて単なる数字よ!』(Amazonペーパーバック)。
アメリカの幼稚園教育は、読めない、書けない幼稚園児に、単語の音を聞かせることから始まります。しかも、それは、母音ではなく子音を重視します。子音は以下の通りです。
b c d f g h
j k l m n p q
r s t v w y z
(20音です)


(子音の音が壁に貼ってあります。子音の単語から学んで行きます)
日本の英語教育は、まずアルファベットを読む練習から始まるのではないでしょうか。しかし、アメリカの教育は、アルファベット、ABCを声を出して、読む練習に重点をおきません。最近の幼稚園におけるリーディングの基礎をご紹介します。例えば、catなら、c/a/t (クッ、アッ、トッ)と音をバラバラにしてから、c/a/tと3つの音をブレンドして「キャット」という発音にたどり着くように教えます。
また、学校によっては、c/a/tの一字一字を指を立てて、より具体的に教えていることもあります。以下はpig(豚)の例ですが、下記のように指を使って教えるアイデアもあります。

(上記は、私の著書、『アメリカの幼稚園ではこうやって英語を教えている』、 p.13より)
もし、生徒が「pigってどう綴るの?」と聞いたら、私は「プッ、イッ、グッ」。「ほら、プッは、スイカに種をプッと口から吐き出すように、プッ。そして、ちょっと笑うように口を横に開けてイ。喉から強く「グッ」と破裂させるのよと答えます。
こうして、幼稚園生は、一つ一つの音を繋げて発音することを学んでいきます。これを「ブレンディング、あるいはブレンド(音を混ぜ合わせること、音をつなげること)」と言います。p/i/gの音達がブレンディングして「pig」になったということです。
なぜ、幼稚園生にブレンドなどという専門語を教えるのかとお思いでしょう。それは、 単語は音と音が混ざり合った(ブレンドした)という考えを徹底させるためです。「d/o/gがブレンドするとdogだよ」なんて幼稚園の生徒が得々と言っていると微笑ましくなります。私も学ばせてもらっています。
幼稚園でボランティアを始めた頃、幼稚園の生徒に「put」の綴りを聞かれたことがありました。アルファベットの「ピイ、ユウ、テイ、putよ」と生徒に教えたら、「うちの学校はアルファベットで教えないのよ」、と先生に注意された経験があります。単語の一つ一つの音を発音させ、それが「ブレンド(混ぜて一緒になると)したらどうなるか?」という教育法に徹底しているようです。

(教室に貼ってある3文字の単語。発音の後は綴りを習います)
アルバカーキー市の教育委員会が子音を強調する教え方をあえて取り入れた理由の一つは、音と綴りの関係から単語を覚えていく教育法が、c/a/t(クッ/アッ/トッ)と単語の文字を発音し、音を混ぜ合わせると(blendingすると)、一つの単語となっていく過程をわかってもらえるためです。そうして、舌をどこに置くのか、口は横に開けるのか、縦に開けるのか、喉を使う音なら、喉に手を当てて、喉の震えを試させています。幼稚園の生徒たちにc/a/tと音を出してから(cat)とブレンドして(混ぜ合わす)、単語が出来上がっていく過程を習得させるためです。
教室には、子音を強調するように子音のグループの文字が貼ってあり、子音から始まる 単語のリストの前に、先生は、毎朝生徒達を呼び寄せて、大声で子音グループの単語を読ませます。こうした音と綴りの関係を毎日30分ほど行います。
指を使っての練習の後には、今ならった子音の音を使った、塗り絵や習った音が入った歌を歌ったりします。Gの練習をしたら、マザーグースのgの入った『おばあちゃんのメガネ』(Grandma’s Glasses)を歌うなどして、習った子音を強化します。

(リーパーすみ子gの音、youtubeでご覧いただけます)
私が働いていた学校がこのメソッドを取り入れたひとつの理由は、生徒達の親はメキシコから来た移民の人たちが多いという理由にもよります。家に帰れば、スペイン語で話す生徒達のために、なんとか具体的に英語の音を覚えさせたい、英語を話せるようになるには、まず「子音」の音を聞くことだという考え方によるものです。
日本語は、母音が60%を占めます。英語を話す時も、つい子音ではなく、母音を強調してしまいます。私がお手伝いさせていただいているアメリカの小学校のように、英語という言語は母音強調ではなく、子音を強調する言語であることをお伝えしたい、そんな思いで、まず幼稚園生達がどのように子音を学ぶかをご紹介させていただきました。

(舌をどこに置くかなどのイラストが教室の壁に貼ってあります)