【絵本読み聞かせ】【英語の考え方】

読み聞かせから多読へ

中村麻里
投稿日:2020.12.20

中村先生の教室では、「多読を楽しむ中学生を育てる」ということをひとつの目標として、幼児期から小学高学年まで、3 ステージからなる読書(リタラシー)プログラムを実施しています。 子どもたちはどのようにステップアップしていくのでしょうか。

ステージ1 音声言語と絵本への興味を育む(幼児~小1)

子どもたちが英語の世界と出会うこの時期を読書準備期ととらえて、音声言語と絵本への興味を育んでいきます。 絵本を中心としたカリキュラムで、子どもたちは月に1冊の割合で絵本を楽しみます。

この時期に適した絵本は、繰り返し文が使われていて、イラストがお話の展開をわかりやすく示しているもの。 たとえば The Wheels on the Bus は、ストーリーをそのまま歌とジェスチャーで楽しめるので、英語独特のプロソディー(抑揚、リズムなど)を身につけるのに最適です。 レッスンでは、まず絵を指さしたりジェスチャーを使ったりしながらことばの意味を伝えることに注意して読みきかせをします。 子どもたちが日本語で話しかけてくることもありますが、そのような時は下の例のように、子どもの発したことばを受けとめて英語でコミュニケーションを図ります。

『The Wheel on the Bus』Annie Kubler 作
CD 付きセット/JYbooks
サンプル音声はここから

子ども :「あ、雨が降ってきた!」
わたし: “Yes, it's raining now. But look! The children in the bus are…happy.” [ イラストの雨、子どもを指さし、happy で人差し指をほほにあててほほ笑むジェスチャーをする ]
子どもたち : “Happy!”

絵本に使われている単語を用いて語彙練習やフォニックス活動も行い、週を追うごとに子どもたちが音読や歌に少しずつ参加できるように導きます。 絵本に付属している CD を使って音読や歌の練習することを宿題にしていくと、1カ月後にはどの子も自然に暗唱できるようになります。

『A Trip to Grandma’s House』Patricia Daly Oe and Mari Nakamura 作
CD付き、アクティビティ・ブック別売り/mpi

ステージ2 絵本をひとりで読むスキルと意欲を養う(小2~小4)

このステージでは、子どもたちはそれぞれ毎レッスンの始めにOxford Reading Tree シリーズ、Penguin Kids シリーズのようなレベルドリーダー(ネイティブの子ども向けのレベル別リーダー)の平易なレベルから本を1 冊選び、黙読と音読をします。 そして自宅に持ち帰り、音読練習をします。次の週には教室で音読をして返却します。その際に、お友だちとペアになって読み聞かせをしあうと、自然とストーリーをより丁寧に、意味を確認しながら読むようになります。 フォニックスはクラス全体で毎レッスン10分ほど学習していき、サイトワードは実際に絵本やテキストで読んだり、カードで手短に読み練習をしたりしながら身につけていくよう努めます。

ここで大切なのは、前レベルと同様の読みきかせも継続していくこと。 子どもたちは自分で読めるレベルの英語よりも難しい英語を聞いて理解したり楽しんだりできますので、その力を引き続き、英語の総合力アップと動機づけに活かしていきます。 この時期の読みきかせにはやや長い面白みのあるストーリーや美しいアートの絵本が最適です。

『The Napping House』Audrey Wood / Don Wood 作
CD 付きセット/JYbooks
サンプル音声はここから

ステージ3 読解力と自立スキルを育てる(小5~小6)

この仕上げのステージでも子どもたちはそれぞれ毎週1冊の絵本を借りますが、その1 冊をていねいに読んでブック・レポートを書いたり感想を発表しあったりすることで、ストーリーにしっかりと向き合う経験を積みかさねます。 レポートを書く目的は、本の内容を振り返って意味理解を努めることにありますので、英語で書くことが難しい場合は、日本語で書いてもかまいません。

『Lily and the Moon』中村麻里・Patricia Daly Oe 作
ELF Learning CD 付き
サンプル音声はここから

この時期には、子どもたちが字面のみを読むのではなくて意味を味わって読書するように、ほとんどの単語を自分で読める図書を貸し出すことをとくに心がけています。 語彙力アップに役立つ辞書の使い方も指導していますが、図書1冊につき、たくさんの単語を辞書でひきたいと子どもが言うようであれば、難し過ぎる絵本を選んでいるということになります。 子どもたちの間では、中学生活を垣間見られて、しかも読みやすいBuilding Blocks Library シリーズ(Level 4 以上)とFoundations Reading Library シリーズが人気です。

『Building Blocks Libraryシリーズ』
mpi
詳細はこちら

『Foundations Reading Library シリーズ』
Cengage Learning
詳細はこちら

子どもたちがひとりで絵本を読めるようになるこの時期でも、1 冊の本をクラスのみんなで囲む時間を大切にしています。 その際には、その日のレッスンのテーマにあわせてノンフィクション・リーダーを選んでさまざまな言語活動を楽しみ、英語を通して文化や科学の見識を広げていきます。

『Our World Readersシリーズ Holiday Colors and Lights』
National Geographic Learning
詳細はこちら

このように幼児期から小学高学年まで、音声言語から文字言語へという自然な過程を経ながら英語図書への興味を育むリタラシー教育を行うことによって、多読を楽しむ中学生を育てています。

執筆者プロフィール

中村麻里

子ども英語教師コミュニティ・MELEP(www.melep.mystrikingly.com)、金沢市イングリッシュ・スクエア主宰。 (www.crossroad.jp/es/)。金沢大学非常勤講師。 幼児から大学生の指導にあたるかたわら教材、絵本の執筆、全国での講演にたずさわり、主体性を育む英語教育の普及に努めている。 イギリス・アストン大学修士課程修了。2019年、JALT国際学会にて基調講演を務める。2013 年・2019年、JALT 学会ベスト・プレゼンター賞受賞。 著書:mpi幼児向け絵本とアクティビティブック・シリーズ(mpi松香フォニックス・共著)Lily and the Moon (ELF Learning 共著)、Phonics Farm(マクミラン・ランゲージハウス)、『ドラえもん はじめての英語辞典』、(小学館・共著)ほか。