「小学校英語教科書シンポジウム」レポート

小学校英語教科書シンポジウム
その2
“Here We Go!”の組み立てにこめた想いなどについて

投稿日:2021.5.19

小泉仁先生
(東京家政大学教授・光村図書出版“Here We Go!”編集委員代表、監修)

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小泉仁先生のチームが執筆した “Here We Go!”



【後発にもかかわらず占有率2位に】
 Here We Go!”というタイトルの小学校英語の教科書を光村図書出版から出版しました。光村の中学校英語教科書は後発だったにも関わらず、従来の“COLUMBUS 21”という名前を“Here We Go!”に改めて、小学校、中学校共に、英語の全国シェア2番目に浮上しました。「英語で育む 心、ことば、学び」ということを一貫して考えてきました。光村図書出版には「国語の光村」というニックネームが付いていましたが、「ことばの光村」に変えようと頑張ってきました。すこしその道ができたかと思います。



【教科書の組み立てにこめた想い】
 私たちは、登場人物の個性を際立たせること、ストーリーがしっかりしていることで、内容が子どもたちにしっかり届くだろうと考えてきました。何年も前のことですが、ある市で、光村図書出版の教科書がほかの教科書に変わった途端、光村の教科書のほうが登場人物のストーリーがおもしろかったと、生徒たちが言い始めました。ある生徒は、ストーリーのところだけ抜いて綴じて物語の本を作ったと聞いています。

 子どもたちの等身大の登場人物が成長してゆくストーリーがある点は、光村の英語教科書の伝統のひとつです。小学校版でのイラストは、スパイダーマンのアニメと同じイラストレーターが担当しています。QRコードを使って子どもたちが家でも音声を聞いたりアニメを見たりでき、予習に良いし復習にも良いです。

 家庭では「何が聞きとれた?」という質問を保護者にしてもらいたくないのです。子どもたちが自分で「こんなことを言っているんじゃないか」と思ったままを教室に持ちこんでもらえたらと思います。先生が「どんなことみんなは聞いてきた?」と聞いて、そこでいろいろな意見が出て、そこで先生がもう一回「じゃあ聞いてみようか」という風に授業を進めてゆきます。そんな風に動画を使えたらと思います。小学校英語が始まってからこのかた、漠然としたものの中から情報をなんとなく吸収していく、よくわからないことがあっても、曖昧なまま我慢していくとわかってくるかもしれないという ‘tolerance’(耐性)というものを身につけることが大切と言われていますが、そういう意味からも動画は役に立つと思っています。

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“Here We Go!”はアニメーションを用いたストーリーで子どもたちを意味の世界に誘う



 国際理解も前面に出しました。「多様な価値観を受け入れて、開かれた心を育てる」異文化理解を促し、あらゆる人たちと国境を越え、思想を越え、協力しないと地球はだめになります。そういった根っこを子どもたちつくってもらえたらと思っています。

 チャンツ・歌にも苦労しました。チャンツはオリジナルです。できるだけひとりごとではなく対話型のチャンツで文型や表現型が理解できたらいいと思いました。歌はマザー・グースなどを入れています。子どもたちになじみのジャズ、ラップ、ヒップホップなどのさまざまな曲調を入れています。

 CLIL*という考え方については、ライオンがシマウマを食べる、シマウマが草を食べる、といった生態系の順序を現したシールをうまく利用して、主語、動詞、目的語といった語順を子どもたちが意識できるようなしかけをつくっています。

 次に教科書の構成です。必ずどの単元も見開きごとでひとつの内容として、Hop!→Step!→Jump!という順序構成で組み立てています。教科書の内容を全部やるのは大変と言われますが、やれるだけやっていただければと思います。自学自習できる本に仕上げています。基本的なことからだんだんレベルを上げて、子どもたちが考えて自分で判断して、自分なりに広い世界をつくっていくという文科省が理想としているような流れがうまくいけばと思いながら、“Here We Go!”を組み立てました。

 文科省の ‘Let's Try!*’の後にうまくつながるようにも意識しました。その中で出した光村図書出版らしさは、物語を追い、意味をやりとりしたいという子どものきもちを盛り上げていくというところです。


【意味の世界へ子どもたちを誘う】
 学習指導要領どおりでの指導ですと、小学校では語や文を読み書きすることは6年生になるまでほとんどありません。アルファベットの文字はどんな音(おん)なのか、文字はどんなかたちに綴るのか、ていねいに指導をして1年経ってようやく単語を綴るところにたどり着くというのは、子どもたちの英語の文字を学びたい理由と繋がらないのではないのかという気がします。子どもたちが英語の文字を知りたいのは、読みたいからです。読みたいというのは、そこに表現されている意味が欲しいということです。コミュニケーションは意味のやりとりです。他者と文字を使ってやりとりができるようになるために文字を知りたい。

 5年ほど前に、東京家政大学の大学院生が、小学生にアンケートで「ローマ字を習ったときに何を感じましたか?」と訊ねたら多くの小学生たちは「これで英語が読めると思った」と答えたそうです。その気持ちに沿うことが必要ですね。

 ローマ字教育と英語のアルファベットの間をどう繋いでいくかという議論が行われています。子供たちはやはり読みたい。かたちを整えるとか音をきちんと入れていくのと同時に、身のまわりにあるさまざまな英語の綴り(アルファベット)とローマ字がちがうといった気づきを子どもたちから引き出すことが大事です。文科省のガイドラインに合わせてはいますが、“Here We Go!”は、意味の世界へ子どもたちを誘えるよう工夫してあります。



*Content and Language Integrated Learning。教科科目やテーマの内容(content)の学習と外国語(language)の学習を組み合わせ双方を等位に置いた学習(指導)の総称。 *文部科学省作成の小学校3年生用外国語活動教材。




次回以降は
・アレン玉井光江先生(青山学院大学教授・東京書籍 “NEW HORIZON Elementary ” 執筆者)の話
“NEW HORIZON Elementary”のプログラムにこめたねらいなどについて

・瀧口優先生(白梅学園短期大学教授)による教科書分析
指導要領の目標から見た教科書と提案

・参加者からの質疑応答 前半
小中学校においての語彙文法習得について

・久保野雅史先生(神奈川大学教授)によるシンポジウム総括
小中学校英語教科書シェア、小中高の接続について

という流れになっています。おたのしみに。