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連載:樫本洋子先生に聞く、25年間の児童教室運営と小学校教職課程の学生を教えてみて考えたこと【第3回】

将来の小学校教員の教職課程の学生さんを教えていく中で

樫本洋子(Kashimoto Hiroko)先生プロフィール
四天王寺大学 教育学部 助教。
修士(英語教育学)。大阪市立大学大学院文学研究科 後期博士課程在籍。
J-SHINE(NPO法人小学校英語指導者認定協議会)トレーナー。
1994年より、幼児から中学生までを対象とした英語教室を主宰(現在は小学生のみ)。近隣の小学校の外国語活動にJTEとして関わりながら、2012年から大阪教育大学附属小学校でALTとして外国語活動に携わる。同時に、教育大学で非常勤として、小学校教職課程の小学校英語関連科目を主に担当する。2020年4月より現職。
英語教育学、CLIL(内容言語統合学習)、読み書き指導などを研究している。

児童が外国語を学習するとき、読み書きよりもまず先に文字の音から

前回もお聞きしたことになりますが、先生は、まずはその言語の「音」に慣れることを重視されていますね。

はい。1994年から主宰してきました英語教室の生徒の皆さんと接する中で、ひとりひとりの個性に合わせた指導を心がけてきました。子どもたちが楽しみながら、それぞれが成長を感じることができるよう、初期段階から歌やチャンツ、読み聞かせなどを通して英語の音声をたくさん聞いてもらうようにしています。また、フォニックスを用いるなどして少しずつ文字と音の結び付きを学び、ひとりで英語の文章が読み書きできるように、段階を追って指導しています。

大学院での研究・調査、そして未来の教員を育てるために

ここ最近の学習指導要領の改訂や、小学校での英語教育の必修化・教科化については、どのように思われますか?

新学習指導要領では、3つの柱(知識・技能、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力・人間性等の涵養)を育成することを目指します。その中で、外国語やプログラミング等が新たに教科となりました。

外国語については、現役の小学校の先生方の多くは、教職課程で「外国語の教授法」というような児童に外国語を教える方法について学ぶ機会がありませんでした。そのために、今年度の新学習指導要領の実施まで、大変なご苦労をされながら、外国語活動・外国語科をどのように指導するか試行錯誤されてきました。

お忙しい先生方は、外国語教育に関する情報を得る機会や、研修を受ける機会も十分ではないようです。私自身がお手伝いできることを探す中で、大学の教職課程の学生さんを教える機会を得ることができました。そこで、例えば、子どもたちの前で少しでも自信をもって英語を発話できるように、フォニックスを授業内で学生さんに体験してもらったりしています。

大学では、教員志望の学生さんに対して、どのような授業をされていますか?

私自身が大学院で学び直しをする中で、小学校の段階では、「たくさん聞き、言葉の音に慣れてから、だんだんその言語のルールを体で感じ取ってから、読み書きへと進んでいく」ことが重要であることを再認識しました。そして、これまでの研究・実践を通じて、小学校での外国語教育は、あくまで初等教育の一部であること、さらには公教育の中で行われることの意義について深く考えるようになっていきました。

ともすれば新しく加わった「外国語」を特別に感じてしまいがちですが、算数や国語などの他の教科同様、子どもたちの全人教育に資するものでなければいけないと思います。ですから、小学校教員を目指す学生の皆さんにも、「例えば算数とか体育とか、それぞれ自分の苦手な科目はあるでしょう?でもだからといって、算数や体育を教えられない、とは思わないよね? 英語も同じだよ。」と伝えています。

学生さんの中には、英語の発音を心配される方も多いです。そこで、大学の授業でも授業の中でアルファベットをAから順に音読してもらいます。すると、たいてい「G」でストップをかけます。なぜなら、間違った音で発音している学生さんが多いからです。そこで本来の音を伝えてアルファベットには名前読みと音読みがあることや、日本語と英語の違いなどを知っていただくのですが、学生さんからは「もっと早く知りたかった!」という声が上がります。


また、単に英語の単語や表現を教え込むのではなく、CLIL(内容言語統合学習)のように、他教科横断的に内容を理解するために、必要に応じて外国語を学び、使いながら覚えていく方法が小学校では適しているのではないか、と考えています。ただ、現状は教員養成課程の外国語に関する科目は、十分ではありませんし、その前にやらねばならないことも多く、圧倒的に時間が足りていないと感じています。

子どもたちにとって、英語を学ぶことはどのような意味があるのでしょうか。

少し前までの時代は、外国と交流をしたり外国の先進の技術・知見等を学ぶために、海外の文献を読んだりするのにまずは文法というルールを学んで、翻訳だったり文章でのやり取りをするための外国語学習が必要でした。しかし、現代は電話やオンラインで直接的なコミュニケーションが求められています。また、最近は人工知能を使った機械翻訳の技術が飛躍的に進んで、外国語を学ぶ目的や意味がどんどん変化しています。ただ言語を学ぶだけでなく、日常の中で、自ら考え、自分の意思を伝えることや、違い(他者・異文化等)を理解し受け入れる態度の育成などが求められるようになっています。

そういう中で、私自身ずっと「なぜ英語を学ぶのか?」と問い続けています。まだ明確な答えは見つかっていません。ですが、母語以外の言葉を学ぶことで、多面的なものの見方や考え方ができるようになり、より多くの人とつながって、ネットワークを広げていけることを私自身が経験してきました。なので、子どもたちにも外国語(英語でなくてもよいと個人的には思っています)を身につけて、自分の可能性を広げていってほしいと願っています。

ご家庭で、外国語教育のサポートをするとしたら、一緒に楽しむこと

ご家庭での外国語学習のサポートは、どのような方法がありますでしょうか?

お子さんたちと一緒に、保護者の方も外国語学習を「楽しんでいただきたい」と思います。例えば、絵本を一緒に読む(見る)こともいいかもしれません。音付きの絵本は、文字が読めなくても、絵を見て英語のリズムを楽しみ、挿絵の助けを借りて、感覚的に絵本のストーリーを感じていただけます。そこで思ったことや、感じたことなどを伝え合うなどして親子一緒に楽しめるといいですね。

数年前にカナダのヴィクトリア大学で、ある教授に出会いました。その先生に「どのように絵本を使用されているのですか?」と質問をしたところ、その先生は不思議そうな顔をされて、少し考えてから「絵本を楽しむこと」と言われました。その先生の言葉で、自分がいつの間にか、何かを「教えるため」の教材として絵本を使おうとしていたことに気づかされ、自分の英語教育の原点に戻ろうと思いました。そこで、帰国してからすぐに自分の教室の低学年クラスで、ある絵本を読み聞かせました。その絵本はラストが完結していないもので、自由に子どもたちが続きを創造できるものでした。子どもたちが目をキラキラさせて、物語の続きを口々に話してくれたときに、「ああ、これだ!」と、とても大切なことを思い出させていただきました。子どもたちは自分たちのお話しを続けるために、自然と英語を学びます。そして、絵本の世界に浸り、楽しみながら感性を養う、これこそが絵本の魅力だと思います。

先生のおすすめの絵本はありますか?

幼稚園から低学年向けになりますが、“Yo, Yes“や”No, David!“は、どのお子さんにも楽しんでもらえますね。おしゃれに興味のある女の子たちに”Ella Sarah Gets Dressed” という絵本を読んだときは、絵本の世界にどっぷりはまり込んでいました。「何かを教えよう」として絵本を選ぶのではなく、子どもたちの日々の生活に近い題材、子ども達が自分に引き寄せて体感できるような絵本を、その時その時に選んでいくとよいと思います。子どもたちは絵本の世界の中で、自ら様々なことを自然に学んでいってくれるはずです。

「Yo! Yes?」、「No,David!」、「Ella Sarah Gets Dressed」